第10回 本案の主張=手続の瑕疵

 今回は、行政処分の取消訴訟における「本案の主張」、すなわち、行政処分の取消事由たる違法のうち、行政手続の瑕疵について、整理してみましょう。取消訴訟の訴訟物は(取消請求の対象である)行政処分の違法性一般ですが、行政処分が違法か論証する場合、通常は、A行政手続の瑕疵、B実体法上の違法(根拠規範が定める処分要件の不充足)という2つの側面から検討することが、「鉄板」の作法です。

 上記Bについては、①処分の根拠法令に照らして違法、②裁量権の逸脱・濫用があり違法(裁量処分の場合=行訴法30条)、③それ以外の違法(法の一般原則の違背、先行行為の違法性の承継、根拠法令の違法・無効など)を検討します。ただし、処理手順として①②③の順番に検討するのではなく、ケースに応じて(多くの場合は②が中心になります)①②③というツールを適切に使い、「本案の主張」を組み立てるイメージになります。具体的な検討方法については、前回までのブログ記事を参照してください。

 これに対して、上記Aは、係争処分について、①手続規範の探索⇒②手続の瑕疵の有無を検討⇒③手続の瑕疵が取消事由となるか検討、という処理手順で検討を進めるのが普通です。以下、説明しましょう。


手続規範の探索

 行政手続の瑕疵について検討するためには、係争処分を規律する手続規範を探索しなければなりません。まず、裁判で争いたい行政処分について、行政手続法の適用があるか、確認しましょう。具体的には、①行政処分の分類上、行政手続法の規律対象となるか、②行政手続法ではなく行政手続条例が適用されるケースでないか、③個別法の定める手続規定が適用されるケースでないか、チェックが必要です。

 上記①については、申請に対する処分不利益処分のどちらかであれば、行政手続法の規律が及びます。前者の場合、申請認容処分・申請拒否処分(一部拒否を含みます)の相違により、理由の提示の必要性が変わることにも注意が必要です。また、不利益処分の場合、行政手続法2条4号ただし書により、不利益処分から除かれて行政手続法の規律から外れる類型があります(同号イ~ニ。例えば、権力的事実行為としての処分は、行政手続法の定める不利益処分の手続的規律から外れます)。

 ちなみに、行政側が申請等によらず職権で授益処分をする場合には、行政手続法の規律は及びません。以下、図を示しましょう。

 同時に、上記②、すなわち、行政手続法行政手続条例のどちらが適用されるか、検討する必要があります。行政手続法3条3項は、地方公共団体の機関がする処分のうち、各地方公共団体の条例・規則を根拠規範とするものについて、行政手続法が定める手続的規律の適用除外を定めます。この結果、地方公共団体の機関が、条例・規則を根拠として行う行政処分は、各地方公共団体の行政手続条例(行政手続法46条の趣旨を踏まえて各自治体が制定します)により規律されます。

 なお、国の法令(法律+法律の委任により定められた法規命令)が根拠規範であれば、地方公共団体の機関がする処分であっても、行政手続法の規律が及びます。ここで国の法令とは、法律とその下位法令であり、法令の委任により地方公共団体が定める条例・規則については、下位法令に含まれます。委任条例に基づく行政処分であれば、その処分の根拠は(遡ってゆくと)法律にあると解釈されるため、行政手続法が適用されるというわけです。これに対して、いわゆる自主条例(国の法律からは独立して、地方公共団体が自主立法として定める条例)が根拠規範であれば、その処分は行政手続条例で規律されます。

 これに加えて、上記③で示したように、行政処分の根拠となる個別法に特別の手続規定があれば、それによることになります(行政手続法1条2項)。ケースによっては、行政手続法3条・4条が定める適用除外や、個別法の側が行政手続法の定めの適用除外を定めていることがあります。面倒な解釈が必要になる事案も想定されますが、通常であれば、処理手順を意識しつつ問題文の誘導や問題に添付された参照条文をよく読めば、十分に対応できると思います。


行政手続法の解釈方法

 行政処分について、手続的瑕疵の有無を検討する場合には、まずは、行政手続の一般法である行政手続法の解釈が基本となります。

 行政手続法は、行政機関の意思決定過程について、利害関係人が自己の権利・利益を手続的に防御するべく、適正手続・公正手続原理を具体化する行政手続の一般法です。行政処分の違法という意味では、実体法レベル(処分が内容的に適法か)ではなく、意思決定プロセス・手続レベルの適正さ・公正さに着眼するものと考えられます。手続に瑕疵があった場合に、その手続が違法(ないし違憲)となりますが、その処分が実体法上違法になるか(手続の瑕疵が、当該行政処分の取消事由となるか)は、もう一段階別の解釈が必要です。

 上記から、私としては、行政手続法の解釈=手続的瑕疵の解釈について、次の2つの「作法」が導かれると考えています。

* 手続的瑕疵の解釈「作法」
 ① 手続的仕組みの「制度趣旨(=目的)」に照らした解釈をする。
 ② 手続的瑕疵が係争処分の取消事由となるか、必ず吟味する。

 上記①は、行政手続法が定める手続的仕組み(処分基準・審査基準の設定・公開、理由の提示など)について、それらがどのような趣旨・目的で定められたかを起点として、手続的瑕疵の有無を判定してゆくというものです。上記②は、手続的瑕疵の本質的な特質として、手続をやり直せば(同一内容の)処分を維持できるか、手続に瑕疵があれば処分それ自体を判決で取り消すのか、という論点があることを意味します。実は、上記②についても、上記①の「作法」を用いて解釈することができるというのが、ひとつのポイントです。

 このように、上記①②の解釈「作法」は、行政の意思決定プロセスの適正性・公正性の確保という行政手続法の制度趣旨と切り離せない関係にあります。そこで、まず、行政手続法1条1項(目的規定)をチェックしておきましょう。

1条① この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。……)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

 行政手続法1条1項は、同法の目的として、①行政運営における公正の確保と透明性の向上、②国民の権利利益の保護の2つを掲げています。①は、行政手続法が、行政の意思決定の不公正・不透明の克服が必要であるとの立法事実により制定されたことをよく示しています。公正性とは、行政決定が恣意的・独断的でなく、偏りのない正しい情報に基づくことをいい、透明性については条文のかっこ書で定義が示されています。通常、公正性と透明性は予定調和しますが(行政運営における透明性向上は、公正性確保につながります)、両者が矛盾するケースも考えられます。たとえば、透明性を高めることにより公正性が阻害されること(公開された処分基準が悪用され、処分には至らない違法行為が助長されるケース、事前手続の中でプライバシーや企業秘密が明らかにされるケースなど)が想定されるので、透明性の向上が国民の権利利益の保護(②の法目的)の枠内にあることに注意する必要があります。

 上記②の目的である「国民の権利利益の保護」にいう「国民」とは、広く一般公衆を指すのではなく、行政上の意思決定につき手続上直接の関係性が認められる者をいうと解されます。行政手続法は処分・行政指導等に係る事前手続を規律しており、個別具体的な処分等について、その当事者(申請者、不利益処分の名あて人、行政指導の相手方等)の手続的利益を保護していると考えられるからです。加えて、条文上、「①、もって②」と規定されることにより、②が究極の法目的であるという立法者意思を読み取ることができます。


行政手続法における処分

 行政手続法2条2号は、処分につき、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定義します。これは、行政事件訴訟法3条2項等に見られる処分の定義と同一であり、基本的に処分性の議論(当連載のシーズン1で扱いました)が当てはまります。その上で、行政手続法は、処分に関する手続について、①申請に対する処分、②不利益処分に二分した上で、それぞれの事前手続を定めます。

 申請に対する処分とは、国民が法令に基づいて行政庁に許認可等を求め、これに対して行政庁が諾否の応答をする処分をいいます。行政手続法2条3号は、「申請」の定義として、「法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分……を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう」と定めています。ここから、①行政庁に応答義務がある(国民に申請権がある)こと、②第三者に対する処分を求めるものでないこと、が読み取れます。

 不利益処分とは、「行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分」です(行政手続法2条4号)。事実上の行為に係る手続としての処分(同号イ)、申請を拒否する処分(同号ロ)、相手方の同意のもとにすることとされている処分(同号ハ)などは、不利益処分から除かれています。

 行政手続法の適用があり、申請に対する処分・不利益処分のどちらかが確認できたら、手続の瑕疵の論証へと進みます。申請に対する処分であれば、申請⇒審査⇒処分の決定不利益処分であれば、通知⇒意見聴取手続(聴聞ないし弁明)⇒処分の決定、という手続構造をイメージし、どの段階にどのような瑕疵があるか、検証してゆきます。行政手続法は、前者について審査基準、後者について処分基準を、それぞれ規定していますが、両者はほぼ裁量基準と考えられます。このことは、裁量統制を軸とする実体法上の違法とリンクしますので、特に注意が必要です。


手続の瑕疵――申請拒否処分の場合

 申請拒否処分について、行政手続法は、行政機関の行為義務として、審査基準の設定・公表(5条)申請に対する審査・応答(7条)理由の提示(8条)を規定しています。行政手続法5条・7条・8条に違背するという認定ができれば、行政手続法の定める義務に違背して違法と評価することができます。その際、これらの手続的仕組みの制度趣旨、すなわち、同法5条・7条・8条の手続が何のために法定されているかという趣旨・目的に照らして行政手続法違反(行為義務違反)を論証するという解釈方法が有効です。

 審査基準の設定・公表(行政手続法5条)の制度趣旨は、行政機関による恣意的・独断的な判断を防ぐとともに、国民の側が行政決定につきあらかじめ予測可能性を得られるようにすること、と考えられます。審査基準は、理由の提示と結びついて手続的意味を増すので、上記の制度趣旨を答案に書く際には、「理由の提示とあいまって」と付け加えるとなおよいと思います。

 なお、審査基準の多くは裁量基準であり、審査基準が合理的であれば行政側は一応それに羈束されます(行政の自己拘束)。行政側が審査基準と異なる判断をする場合には、理由の提示等による十分な説明が要求されます。審査基準は、それが合理的と解釈される限りで、国民に対して一定の外部効果を有すると考えられます。審査基準を「公に」するとは、「知りたい者に対して秘密にしない」という趣旨であり、国民から求めがあれば閲覧できる状態にあることを意味します。

 申請に対する審査応答義務(行政手続法7条)とは、行政庁には申請に対する審査応答義務があり、応答しないのであれば、申請者に補正を求めるか、申請拒否処分をするかどちらかの選択肢しかない、という手続的仕組みです。その制度趣旨は、申請書の受理拒否・返戻が違法であること、申請に対する応答の留保が違法であることを明確にし、行政判断の透明性・公正性を担保する、というものです。

 理由の提示(行政手続法8条)の制度趣旨は、理由を提示することにより、行政庁による決定が慎重になり(慎重合理性担保・恣意抑制機能)、申請者が行政不服申立て等の事後的な争いをしやすくなる(争訟便宜機能)というものです。理由の提示については、処分の相手方を説得する機能、行政決定過程を公にする機能等もあるとされますが、理由の提示が違法か解釈する場合には、慎重合理性担保・恣意抑制機能、争訟便宜機能の両者が制度趣旨であることから立論するのが「鉄板」です。

 理由の提示については、提示(書面の場合は付記)される理由の内容・程度が手続の瑕疵を構成するか、という論点があります。申請拒否処分の「理由」ですから、処分要件(法令上の許認可等の要件+審査基準の内容)と事実関係を提示することになりますが、行政手続法上の瑕疵(義務違反)に当たるかの判定は、処分要件の具体性ともあいまって個別具体的な解釈が必要になります。

 この点、リーディングケースとして知られるのは、行政手続法の制定前の事案ですが、旅券法に基づく旅券発給拒否処分の理由付記に関する最判昭和60年1月22日民集39巻1号1頁(行政判例ノート12-5)です。最高裁は、(当時の)旅券法が定める理由付記の制度趣旨について、「外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨」であるとし、「一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でない」としました。

 要するに、判例は、理由付記の制度趣旨について、①処分庁の判断の慎重合理性担保・恣意抑制、②処分の相手方の争訟便宜であるとした上で、求められる理由付記の程度として、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して申請を拒否されたか、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならない、とします。加えて、判例は、理由付記に瑕疵がある場合、理由付記の制度趣旨に照らして、直ちに処分自体の取消事由となることも示しています。

 上記の判例は、行政手続法8条の解釈にも妥当すると考えられます。ただし、同法5条が審査基準を法制化したことから、理由の提示の瑕疵の判断基準についても、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規・審査基準を適用して申請拒否処分がされたか、申請者においてその記載自体から了知しうるか、というかたちになるでしょう。

 

* 行政手続法上の努力義務規定

 行政手続法は、申請に対する処分について、行政機関の努力義務として、標準処理期間(6条)、情報提供(9条)、公聴会の開催(10条)、共管事項の迅速処理(11条)を定めています。これらは、行為義務規定でないため、直ちに行政手続法上の違法には結びつきません。しかし、たとえば、個別法で公聴会開催を義務付けるケースなどでは、手続の瑕疵が問題になります。

 個別法上、審議会への諮問・公聴会の開催が義務付けられていたケースの判例として、最判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁(行政判例ノート12-3)があります。路線バス(一般乗合旅客自動車運送事業)の免許に係る申請拒否処分が争われたもので、群馬中央バス事件と呼ばれます。この判例では、①個別法の規定に基づく審議会への諮問手続、②審議会が開催した公聴会手続について、瑕疵=違法が争われています。最高裁は、①について、法が諮問機関への諮問手続を定めているのは「行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保する」趣旨であり、「行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるとき」に、処分は取消しを免れないとします。また、②については、法が公聴会審理を要求する趣旨が「運輸審議会の客観性のある適正かつ公正な決定(答申)を保障する」こととした上で、公聴会の審議手続の内容は、申請者・利害関係者に対し「決定の基礎となる諸事項に関する諸般の証拠その他の資料と意見を十分に提出してこれを審議会の決定(答申)に反映させることを実質的に可能ならしめるようなものでなければならない」と述べています。

 法律・条例が諮問手続や公聴会手続を定めているケースを設定して、それらの手続的瑕疵を評価させることは、行政法事例問題の「定番」です。上記の群馬中央バス事件が示す規範については、ぜひ使えるよう準備すべきでしょう。ただし、上記判決は、公聴会手続の不備を認定したものの、仮に不備を正して手続を尽くしても審議会の決定は変わらないと判断し、処分自体の取消事由にならないと解しています。


手続の瑕疵――不利益処分の場合

 不利益処分の手続は、名あて人(となるべき者)への通知⇒名あて人からの反論(意見聴取手続)⇒処分の決定、という流れになります。意見聴取手続として、聴聞(正式の手続)または弁明の機会の付与(略式の手続)が行われます。行政手続法が定める行政機関の行為義務として、通知(15条・30条)、理由の提示(14条)が問題になるほか(処分基準の設定は努力義務)、聴聞における手続的権利(口頭意見陳述・証拠書類等提出・文書閲覧請求)の侵害がないかチェックする必要があります。行政手続の瑕疵(行政手続法上の違法)を評価する際には、申請拒否処分と同様、手続的仕組みの制度趣旨(法は何のためにそのような仕組みを定めたか)に照らして論じると効果的です。

 上述のように、不利益処分の事前手続(意見陳述手続)には、聴聞・弁明の機会の付与の2種類があります。聴聞は、許認可等の取消し(行政手続法13条1号イ)、資格・地位の直接的な剥奪(同号イ)、法人への役員等の解任・除名の命令(同号ハ)、行政庁が相当と認める場合(同号ニ)に行われ、個別法により必要とされる場合もあります。不利益処分の名あて人の法的地位をゼロにするタイプの重い処分の場合は、正式の手続である聴聞が必要とされるイメージです。それ以外(許認可等の一時的な停止など)は、弁明の機会の付与となるのが普通です。

 聴聞とは、主宰者が、不利益処分の名あて人となるべき者と処分庁の間に立って、口頭審理を中心とする手続を進行させる手続です。名あて人の側には、口頭意見陳述権証拠書類等提出権文書閲覧請求権があります。また、名あて人の側は、主宰者の許可を得て、行政庁の職員に質問することができます。聴聞の審理が終了すると、主宰者は、聴聞調書と報告書を作成します。行政庁は、聴聞調書の内容と、報告書に記載された主宰者の意見とを「十分に参酌」して不利益処分を決定します。以下、手続の流れを図示しましょう。

 これに対して、弁明の機会の付与は、名あて人となるべき者への通知⇒名あて人となるべき者からの弁明書・証拠書類等の提出⇒行政庁による決定、という流れであり、書面審理主義を原則とします。

 

 不利益処分に共通する手続原則として、行政手続法は、①通知(15条・30条)、②処分基準の設定・公表(12条)、③理由の提示(14条)を規定しています。

 聴聞・弁明の機会の付与の通知は、不利益処分の名あて人となるべき者が、手続的防御の準備を図る上で重要な意味を持ちます。聴聞の期日・弁明書の提出期限までの「相当の期間」、通知内容の具体性(不利益処分の原因となる事実が、防御権を有効に行使できる程度に具体的か)などが、手続的瑕疵の評価ポイントとなります。

 処分基準の設定・公表は、行政庁の行為義務ではありませんが、設定・公表されている場合には、裁量基準の典型として解釈論で大きな役割を果します。最高裁は、不利益処分において処分基準が設定・公表された場合、特段の事情がない限り、処分庁の裁量権は当該処分基準に従って行使すべきことが覊束される、としています(最判平成27年3月3日民集69巻2号143頁・行政判例ノート18-7)。行政手続法が不利益処分の名あて人の手続的保障を制度趣旨として処分基準を位置付けていることから、理論的には行政規則として行政組織内部の法的効果にとどまるはずのものであっても、国民に対して一定の外部効果を有するものとして扱うべき、という考え方が読み取れます。

 理由の提示については、その制度趣旨に照らして、不利益処分の名あて人が、どのような事実関係に基づきいかなる法令・処分基準が適用されて不利益処分を受けるのか、具体的に理解できるだけの理由が提示される必要があります。そうでなければ行政手続法14条に照らして違法であり、理由の提示の瑕疵は、原則として不利益処分の取消事由になると解釈されます。

 最高裁は、処分基準が設定・公開されていたケースで、不利益処分の理由の提示の瑕疵について、次のように判示しています(最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁・行政判例ノート12-5A)。この事案は、個別法上、不利益処分の要件が抽象的・概括的である一方、事前手続を経て詳細な内容の処分基準が設定・公開されていた、というものです。

(行政手続法14条1項本文による理由の提示は)行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。

                   ⇓

どの程度の理由を提示すべきかは、……同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。

                   ⇓

(処分要件が抽象的でかつ効果裁量も認められる一方、事前手続を経て複雑な内容の処分基準が設定・公開されている場合の)懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、……いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難である。

                   ⇓

(本件では理由として処分基準の適用関係が全く示されておらず)いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ることはできない……。

                   ⇓

本件の事情の下においては、行政手続法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の要求する理由提示としては十分でないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるというべきであって、取消しを免れない。

 上記のロジックのうち、上から2番目の囲いは、本判決が新しく提示した理由の提示の内容に関する解釈枠組みです。その中でも、処分の根拠法令の裁量が広いこと、詳細な内容の処分基準が設定・公開されていること、処分の量定が最も重いものが選択されていることが、本判決の当てはめのポイントと考えられます。他方で、上から3番目の囲いは、従前からの規範(いかなる事実関係に基づきいかなる法規・処分基準を適用して処分をされたか、理由の提示の記載から了知しうるか)が用いられ、4番目の囲いで当てはめられています。また、最後の囲いでは、理由の提示の瑕疵が、不利益処分の取消事由になることが明確に示されています。


手続の瑕疵と処分の取消事由

 申請拒否処分・不利益処分のいずれも、行政手続法に違背する手続の瑕疵を認定できた場合に、そのことをもって行政処分の取消事由(または無効事由)になるか、論証する必要があります。これは、取消訴訟等で行政処分を争う場面での「本案の主張」として、絶対に忘れてはならない処理手順です。

 上記の問題は、手続の瑕疵の法的効果について、A適法な手続が履践されてはじめて適法な行政処分となるという考え方(行政手続の意義、国民の手続的権利の保障を重視するもの)と、B行政手続は実体的に正しい行政処分を担保する手段にすぎないとする考え方、があることに由来します。A説は手続的瑕疵が直ちに行政処分の取消事由になるとの解釈につながり、B説は手続的瑕疵を正しても行政決定の結論が変わらない場合に行政処分を取り消す必要はないとの解釈を導きます。

 行政手続法の制定前、判例は、上記B説をベースにしつつ、理由付記のように制度趣旨から手続の瑕疵が直ちに処分の取消事由になるパターンを認めてきました。A説とB説を、手続の制度趣旨により使い分けていたのです。

 しかし、行政手続法が施行された現在、行政庁の行為義務として法定された手続に瑕疵があれば処分の無効事由・取消事由を構成する、という原則でなければ、行政庁に手続的な行為義務を課す意味が著しく失われてしまいます。行政手続法上の行為義務の違背、あるいは、国民側(申請人・不利益処分の名あて人)の手続的権利の侵害が認められても、行政側から見て、後から紛争になれば手続をやり直せばよいだけのことになるからです。

 以上から、手続の瑕疵の法的効果の解釈として、少なくとも行政処分の取消しを主張する当事者側であれば、A説をベースに立論すべきと考えられます。すなわち、行政手続法が行政庁に行為義務を課している手続的仕組みの趣旨目的(重要性)を指摘し、そのような重要な手続の瑕疵について、当該手続が要求される制度趣旨が侵されるとの根拠を示した上で、手続の瑕疵は処分の取消事由になると解釈する、という「処理手順」が推奨されます。

 その上で、「行政手続法の定める行為義務が履践されなくても当該処分が取り消されず、事後的に行為義務を果たせば当該処分が維持されるのでは、行政手続法が当該行為義務を定めた趣旨を著しく没却する」、あるいは、「行政手続法が行政機関に行為義務を課した趣旨に照らし、同法違反があっても処分の法的効果が失われず、手続をやり直すことにより瑕疵が治癒するのであれば、その趣旨は到底達成されない」などのワーディングを用いることが考えられます。国民の権利利益の手続的防御に関わる瑕疵があれば、そのことが直ちに処分本体の取消事由になる、と述べることもできるでしょう。

 もっとも、現時点で、判例がA説で確立したとは言えません。行政側の反論に言及するという設問であれば、B説の側から反論することを書くべきでしょう。また、国民側(行政処分の取消しを主張する側)の立論であっても、たとえば、「行政手続法の規定する重要な手続を履践しないで行われた処分は、当該申請が不適法であることが一見して明白であるなど特段の事情がある場合を除き、行政手続法に違反した違法な処分として取消しを免れない」、というように、手続の瑕疵が直ちに処分の取消事由になるとまでは述べず、原則として取消事由になると書く方法もあるでしょう。いずれにしても、論述のポイントは、手続的仕組みの制度趣旨を組み込むことにあります。

 

* 個別法の定める手続の解釈-個人タクシー事件

 最判昭和46年10月28日(民集25巻7号1037頁・行政判例ノート12-2)は、行政手続法制定前の行政手続に関する基本判例として有名です。一般乗用旅客自動車運送事業(個人タクシー事業)免許の申請拒否処分が争われたケースですが、行政裁量が広く認められる処分について、個別法が定める手続規定の趣旨から審査手続の瑕疵を認定し、さらに申請拒否処分の取消事由になることまで肯定しています。

 個別法の定める処分要件が厳格でないことを前提に、職業選択の自由にかかわりを有する免許の許否について、行政内部での審査基準の設定と、申請者に主張・証拠提出の機会を与える必要性を指摘するロジックは、憲法上の権利の規制であることを手がかりに手続的観点から裁量審査の密度を高めるものとして、現時点でも意義深いものです。他方、同判決では、手続の瑕疵が是正されたとすれば行政判断が変更される可能性を認定した上で処分を取消しており、手続の瑕疵の法的効果という点では、上記B説に依拠しています。この点、あくまで個別法の解釈であり、現在の行政手続法の定める手続的仕組みに関わるものでないことに留意すべきです。以下、事件当時の道路運送法の条文を紹介しておきます。

6条① 運輸大臣は、一般自動車運送事業の免許をしようとするときは、左の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならない。
 一~三 (略)
四 当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること。(以下略)
 
122条の2① 陸運局長は、その権限に属する左に掲げる事項について、必要があると認めるときは、利害関係人又は参考人の出頭を求めて聴聞することができる。
一 自動車運送事業の免許 (以下略)
② (略)
③ 前二項の聴聞に際しては、利害関係人に対し、意見を述べ、及び証拠を提出する機会が与えられなければならない。(以下略)

 係争処分の根拠規定は6条1項であり、要件充足が争われているのは同項4号です。4号が不確定概念であることは直ぐに解りますが、そもそも、1項は、「基準に適合するかどうかを審査」と定めていて、4号を充足すれば免許がされる仕組みではありません。要件適合性に関する行政裁量は極めて広いことが読み取れます。

 他方で、122条の2は、申請に対する処分であるにもかかわらず、免許に係る利害関係人の意見聴取という趣旨での「聴聞」を規定します。これは、現在の行政手続法が定める聴聞(不利益処分における意見聴取手続)とは性格が異なり、必要な場合に申請人の言い分も聴くという事前手続です。

 上記を前提に、最高裁は、裁量の広い行政処分(本件免許処分)であっても、特に法定されている「聴聞」について、職業選択の自由との関わりにも注意を払いつつ、事前手続としての実質が確保されることを個別法の解釈として求めたものと考えられます。個別法の仕組みをとらえた解釈技法について、よく確認してください。

 それでは、今回はここまでとしましょう。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

 

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