第2回 処分性の基礎

処分性は「基本中の基本」

 最初のテーマは処分性です。

 処分性は、抗告訴訟の対象となる「行政処分」を画する解釈問題です。処分性は、抗告訴訟(その典型が取消訴訟です)を利用するための訴訟要件で最初に問題になり、行政に関わる紛争について司法的救済の「受け皿」を決定する重要な役割を果たします。

 かつて、処分性は、取消訴訟の訴訟要件(取消訴訟を適法に提起するための要件。これを充足しないと訴えは不適法として却下されます)として、説明されていました。*1 処分性とは、抗告訴訟の典型である取消訴訟を利用するために、大前提となる訴訟要件というわけです。しかし、2004年の行政事件訴訟法改正以降、同法3条が規定する法定抗告訴訟は多元化され、取消訴訟が抗告訴訟の典型・中心であるとはいえなくなりました。*2私は、処分性とは、抗告訴訟の対象性の問題であり、抗告訴訟の意義や構造を画する基本要素として説明するべきだろうと思っています。いずれにしても、行政訴訟を理解するために、まずは処分性を学ぶ必要があります。*3

 また、処分性を画する解釈技術は、行政活動の最も典型的な行為形式としての行政処分を定義付けることと重なります。行政法を体系的に学んでゆくと、「行政処分」あるいは「行政行為」の項目が現れます。加えて、行政処分の理解は、重要な論点である行政手続、行政裁量を学ぶためにも欠かせません。処分性の問題は、行政法全体を理解するためにクリアーしなければならない第1のハードルといえるでしょう。

 当連載の第3回では、予備試験の問題を素材として具体的な解釈論を実践しますが、今回は、その準備として、「基本中の基本」となることがらを、できる限り「図」や「表」を使って「見える化」したいと思います。少々長くなりますが、ここで基礎を攻略するよう、がんばって進めましょう。

 

行政事件訴訟法の条文

 処分性とは、行政事件訴訟法3条が定める抗告訴訟の対象性に関する解釈問題です。判例は、「抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」ことを、処分性があると表現します。*4これらのことから、以下の等式が成り立ちます。

 抗告訴訟の対象=行政処分

 次に、行政事件訴訟法3条の条文を点検しましょう。抗告訴訟を定義した同法3条1項は、「この法律において『抗告訴訟』とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。」というものです。これを、上記の等式に付け加えてみましょう。

 抗告訴訟の対象=行政処分=行政庁の公権力の行使(不行使を含む

 の部分は、条文に「関する」と書かれていることから、不行使を含むと解釈できます。すると、処分性(行政処分)とは、ある行政の行為が「公権力の行使」に当てはまるか、という解釈問題であると整理できそうなのですが、そう単純には行きません。行政事件訴訟法3条2項・3項には、「処分」と「裁決」という概念が登場します。行政事件訴訟法3条2項は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く)」を「処分」と呼び、同法3条3項は、「審査請求その他の不服申立て……に対する行政庁の裁決、決定その他の行為」を「裁決」というと定めています。*5これらを見比べると、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、行政事件訴訟法にいう処分と裁決の全体であることが読み取れます。

 抗告訴訟の対象=行政処分=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法3条2項・3項の定める処分+裁決)

 このように見てくると、処分性とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政事件訴訟法3条2項)であるか否かの解釈問題である、と整理できます。皆さんも、条文をよく眺めてみるとよいと思います。

 

※ 「その他」と「その他の」

 行政事件訴訟法3条2項は、処分性のある行為について、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と規定します。下線のように、「Aその他B」と書かれています。他方、同法3条3項には、「審査請求その他の不服申立て」という箇所があります。同法4条後段も、「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟」と規定しています。

 法律の条文には、「Aその他B」という書きぶりと、「Aその他のB」という書きぶりがあり、両者の意味は異なります。前者は、AとBが併置されることを示し、後者(その他の)は、AがBの例示であることを表します(AはBに包摂されます)。

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 同法3条2項は、「行政庁の処分」と「その他公権力の行使に当たる行為」を並べて規定しており、その全体が、抗告訴訟の対象となる行政処分と解されます。ゆえに、処分性が認められる行為は、次のように整理できます。

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判例の定式

 次に、「抗告訴訟の対象となる行政処分」について、判例がどのような定義を与えているか、見てみましょう。一例として、東京地裁行政部(古田孝夫裁判長)の決定文(東京地決平成29年2月3日・判例集未登載)から引用しましょう。*6

「抗告訴訟の対象となる行政処分とは、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務その他の法的地位を形成し又は変動することが法律又は条例によって認められているものをいうものである(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。」

 東京地裁行政部の判決では、テンプレートとしてよく目にします。実務上のよく考えられた定義であると思うのですが、私が法科大学院の授業で紹介しても、残念ながら答案に書く学生に出会ったことはありません。法科大学院生の方々は、上記にも引かれている最高裁判決(昭和39年最判)の定義をデフォルト(迷ったときに選択する定番)として使っているようです。以下、引用します。*7

「行政事件訴訟特例法1条にいう行政庁の処分とは、……行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」。

 上記最判による定義の主語●●は、「行政庁の処分」です。これは、旧行政事件訴訟特例法1条の文言です。まず問題になるのは、現在の行政事件訴訟法の条文から読み取れる抗告訴訟の対象となる行政処分と、旧行政事件訴訟特例法1条にいう「行政庁の処分」が同じなのか、ということでしょう。この点について、上記の最判が「処分性のリーディング・ケース」*8であるという一般的な理解はあるといえます。最近の判例でも、たとえば最判平成24年2月3日民集66巻2号148頁(判例ノート16-6〔A〕)は、「抗告訴訟の対象となる行政処分」に当たるか否かの判断について、昭和37年最判等参照と判示しています。*9

 すると、もし私が学生なら、判例による「行政庁の処分」の定義は、以下のように覚えるでしょう。

 行政庁の処分とは、行政庁の法令に基づく行為のうち、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

 処分性の有無は、上記の定式を当てはめて判定するのが基本です。そこで、「当てはめ」をうまく行えるように、定義を踏まえた処分性判定の指標(抽象的な基準を具体的なケースに当てはめて結論を導くための「目安」)が問題となります。私としては、処分性判定の指標は、①係争行為の公権力性、②法律上の地位に対する影響(法的地位の形成・変動)、の2点に集約できると考えています。*10

<処分性判定の指標>

 ①公権力性 + ②法律上の地位に対する影響(法的地位の形成・変動)

 処分性の解釈論は、係争行為(当事者が抗告訴訟で争いたいと考えている行政の行為)について、その根拠規範(いわゆる個別法)を解釈して、上記①②の指標を意識しつつ、判例の定義を当てはめる(定義に該当するか検討する)作業、というイメージになります。

 また、ここで大切なことは、処分性の有無は、根拠規範(個別法)により定性的に決まる、ということです。判例は、事案によって処分性の有無が変わる、あるいは、原告により処分性の有無が変わるという解釈はとりません。*11処分性を否定した場合には、当事者訴訟ないし民事訴訟が救済の受け皿になるケースが考えられますが、受け皿のひとつである当事者訴訟としての確認訴訟における確認の利益は、法令により定性的に定まるのではなく、事案ごとに個別に判断されます。この違いは、訴訟類型選択を考える場合に重要なポイントとなりますから、ぜひ覚えておきましょう。

 

判例の定義と当てはめ

 上記の2つの指標は、判例の定義を当てはめて結論を導くツールとしては、少し「粗い」ように思われます。*12判例のロジックを理解するためにも、自分自身で起案するためにも、もう一段階「目の細かい」指標が必要かもしれません。私は、行政処分に関する判例の定義について、上記②の部分を、さらに4つに分解して指標とすることを推奨しています。

 行政庁の処分とは、行政庁の法令に基づく行為のうち、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、A直接B国民C権利義務を形成しまたはその範囲を確定することD法律上認められているものをいう。

 上記のように、私は、判例による処分性の定義のうち、法律上の地位に対する影響の部分を、「直接」「国民」の「権利義務を形成し又はその範囲を確定する」ことが「法律上認められている」という4要素に分解できると考えます。以下、これらの指標について、整理します。まずは、ざっくりと概要を掴んでください。また、具体的な判例については、後掲の<付表1>にまとめておきました。併せてご覧いただけると、ありがたいと思います。

 

①係争行為の公権力性

◎「公権力性」の要素

 ⇒当該行為が、法が認めた優越的地位に基づき、法律関係を一方的に変動させる行為であることの判定にかかわる。

 ⇒私法上の行為(契約など)との判別、公共施設の設置・供用(嫌忌施設の建設・稼働など)の法的性質の解釈、給付行政における決定(給付拒否決定★★など)の法的性質の解釈で問題となる。

★ 公共施設の設置・稼働について、処分性を認めて抗告訴訟で争うのか、人格権に基づく民事差止訴訟で争うか、訴訟類型選択が問題になると考えられます。

★★ 国民に対して給付を拒否する行政決定が、行政処分(申請に対する処分)か、契約の申込みに対する応答行為か判定するパターンです。申請拒否処分を争う抗告訴訟か、民事訴訟(給付の訴え)か、訴訟類型選択が問題になると考えられます。


※上記★★は次のようなイメージです。

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 上記左の場合、国民の側に給付を受ける請求権があるか否かが争点になると考えられますが、上記右の場合は、行政主体の申請拒否処分*13が違法か否か(裁量権の逸脱・濫用の有無、手続的瑕疵の有無など)が争点になるのが普通でしょう。この点も含めて、問題状況をイメージするとよいと思います。

 

②「法律上の地位に対する影響」を構成する4要素

②=A 「直接」という要素

 ⇒当該行為が、直接的・個別具体的な法的効果をもつ行為であること(一般的・抽象的な法的効果にとどまらないこと)の判定にかかわる。

 ⇒一般的・抽象的な法的規律を定める行為(行政基準・条例の制定行為など)、直接的な名あて人のない行為(一般処分・対物処分★★など)、行政過程の中間段階の行為(計画決定行為★★★など)の処分性判定で問題となる。

★ 行政基準を定める行為、条例制定行為などは、通常、特定人の具体的な権利義務に直接の影響を及ぼすものではなく、処分性は否定されます(抽象的一般的な権利義務を定めるのみ)。しかし、これらの行為についても、具体的な執行行為を経ることなく特定人に具体的な法的効果を及ぼす(行政処分と実質的に同視できる)と解釈できれば、処分性を認める余地が生じます(たとえば、条例制定行為を直接つかまえて、抗告訴訟で争うことができることになります)。

★★ 形式上は特定の名あて人のない行政庁の行為について、当該行為が特定人に具体的な法的効果を発生させるか否か、法的仕組みに照らした解釈により処分性の判定が行われることがあります。告示による二項道路の一括指定について、当該告示が個人の権利義務に対して直接影響を与えるとして処分性を肯定した判例(最判平成14年1月17日・判例ノート16-8)をイメージしましょう。

★★★ 複数の行為が連鎖して行政プロセスが進行する場合の、中間段階(最終段階ではないという意味です)の行為の処分性は、国民に直接具体的な法的効果を発生させるかという観点から解釈されます。街づくり行政などでの計画決定行為について、その法的効果が一般的・抽象的なものに過ぎないか、個別具体的・直接的なものかを判別するイメージです。行政プロセスのどの段階で(タイミングで)抗告訴訟を使って争うことができるか、という問題(第1回連載で説明した「紛争の成熟性」の問題*14)と重なります。


※上記★★★の典型として、小田急高架訴訟の事案をイメージしてみましょう。*15

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 小田急高架訴訟では、平成6年の都市計画事業認可を争う取消訴訟について原告適格が肯定され(最大判平成17年12月7日民集59巻10号2645頁・判例ノート17-11)、それに先行する平成5年の都市計画変更決定が違法か否か判断されました(最判平成18年11月2日民集60巻9号3249頁・判例ノート9-1)。判例では、都市計画決定の処分性が否定されているため、先行処分⇒後行処分として行政処分が連続するパターンではなく、違法性の承継は論点となっていません。

 

②=B 「国民の」という要素

 ⇒当該行為が、国民に対する外部効果をもつ行為であること(行政組織内部の法的効果にとどまらないこと)の判定にかかわる。

 ⇒当該行為のもつ法的効果が行政機関内部にとどまるもの(通達などの内部行為)、行政機関相互の行為★★、公務員に対する職務命令などの処分性判定(結論否定のロジックとして登場することが多い)で問題となる。

★ 通達は、行政組織内部の行為として行政機関を法的に拘束するとしても、国民(行政主体の外側にいる法主体)との関係で直接具体的な法的効果を生じるものではないとして、処分性を否定されるのが通常です。

★★ 行政機関相互の行為についても、国民との関係で直接具体的な法的効果を生じないとして処分性が否定されるのが通常です。

 

※上記★★の例として、消防法に基づいて消防長(村の機関)が知事(県の機関)に対してした同意拒否行為につき処分性を否定した判例(最判昭和34年1月29日・判例ノート16-12)のイメージ図を示しておきましょう。

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 上記の図において、時間軸は①⇒④と進行します。裁判では③が争われており、紛争の時点で④はまだ実現していないと想定されます。判例の考え方によれば、③について処分性は否定されるので、原告(事業者)としては、④の行為(申請拒否処分が想定されます)をまってその取消訴訟を提起し、同意拒否が違法であると主張することが正しい方法ということになります。現在の行政事件訴訟法であれば、事前救済型(処分獲得型)の抗告訴訟として、申請型義務付け訴訟を提起することがファーストチョイスと考えられます。

 

②=C 「権利義務を形成し又はその範囲を確定する」という要素(法的規律の要素)

 ⇒当該行為が、国民の法的地位を変動させること(法的効果を有さない事実行為でないこと)の判定にかかわる。

 ⇒行政庁が国民に法律的見解を表示する行為(通告、通知、勧告など★★)が、具体的な法的効果を生じさせない行為として処分性が否定されるか、抗告訴訟の対象となる行政処分といえるかの判別で問題となる。相手方に一定の不利益を与えるけれども、法的地位を変動させるものではないとして処分性が否定されるケース★★★も見られる。

★ 行政庁が法律的見解を表示する行為は、一般的には、単なる事実行為(表示行為)として処分性が否定されます。処分性が問題とされるケースには、行政指導との判別が問題になるタイプ(勧告、通知等の行為)、行政指導とは普通考えない事実行為との判別が問題になるタイプ(公表、調査等)があります。他方で、事実行為であっても、権力的事実行為として処分性が認められる(行政事件訴訟法3条2項にいう「その他公権力の行使に当たる行為」に該当する)可能性があることも、頭の隅に入れておくべきでしょう。

★★ 判例は、行政主体による事実行為(行政指導や観念の通知)とも考えられる行為について、関連する法令の「仕組み解釈」に基づいて処分性を柔軟に解釈し、抗告訴訟の対象行為として認めることがあります。通常、法令または条例上「通知」、「告知」、「勧告」等とされているものの処分性の有無の問題というパターンが見られます。

★★★ 判例は、都市計画法における開発許可申請の過程での公共施設管理者の同意拒否行為の処分性を否定しました。同意拒否行為により開発許可申請ができず、その結果として開発行為を行うことができなくなったとしても、開発を行おうとする者の権利ないし法的地位が侵害されたものとはいえないという理屈を述べています(最判平成7年3月23日・判例ノート16-3)。外形的に法的地位に影響するように見えても、法的仕組みに照らして、係争行為は法律関係を変動させていない、というロジックになっています。*16

 

※上記★★について、検疫所長の通知に処分性を認めた判例(最判平成16年4月26日・判例ノート16-5)について、イメージ図を示してみましょう。

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 時間軸は、①⇒④と進みます。②は2か所あります(先後関係が不明という趣旨です)。③④は、本件紛争の時点より将来のプロセスとして想定されるものです。①は「届出」ですから、普通に考えると行政機関の応答行為は予定されないはずです。*17検疫所長の輸入業者Xに対する通知書の交付行為は、食品衛生法違反の品物だから積み戻しをするか、廃棄するかを指示する行政指導であるとも考えられます。しかし、判例は、食品衛生法に基づき食品の輸入届出をした者に対して検疫所長が行う通知(当該食品が同法に違反する旨の通知)について、輸入届出をした者への応答として法に根拠を置くものであり、通知により税関長による輸入許可が受けられなくなるという法的効力を有するとして、処分性を肯定しました。Xが持ち込んだ食品について、食品衛生法に違反するという行政側の判断が、関税法上の申請手続(③④)において再度なされることはなく、法の仕組みにおいて検疫所長による判断が最終的なものであり、そうである以上、Xとして検疫所長の通知を抗告訴訟で争うことができると解釈すべきであるという考え方が読み取れます。*18

 

※※上記★★について、医療法の勧告に処分性を認めた判例(最判平成17年7月15日・判例ノート16-7)は、次のようなイメージになります。時間軸は左から右に進みます。縦方向の青い破線が紛争のタイミングを示しており、それより右側は、将来的に生じるプロセスを記しています。

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 この事案では、病院を開設しようとする者(X)に対して、医療法に基づき、知事は開設許可処分(申請を認容する処分)を出しています。自分の申請が認容されているのですから、普通に考えると、Xはこの処分を争うことはできません。ところが、この処分の直前、知事はXに対して勧告(病院開設中止の勧告)をしており、開設許可処分の時点で、Xがこれに従わないと健康保険法上の保険医療機関の指定は受けられない、との「予告」を通知します。これをとらえて、判決では、勧告に従わない場合、「相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保健医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす」とされています。要するに、病院開設につき医療法上の許可は出すけれども、地域医療の規模・病床数などを抑制するという行政側の意図に従わせるため、別の法律が規律する健康保険制度とリンクさせて勧告に実質的な強制力を持たせる、という「メカニズム」が読み取れるというわけです。

 判例は、上記の勧告について、医療法上は行政指導であるが、これに従わないと実際上病院の開設を断念せざるを得ないことになることを指摘しています。Xにとって、勧告のタイミングをとらえて抗告訴訟で争えるようにしないと、合理的な紛争解決の途が閉ざされることをとらえた判断と言えるのではないでしょうか。

 

②=D 「法律上認められている」という要素

 ⇒当該行為が、法律ないし条例に基づく行為であること(法規性のない規範に基づく行為、根拠規範のない行為でないこと)の判定にかかわる。

 ⇒給付行政(侵害留保原則により法律の根拠が要請されない)において、通達・要綱など法規性のない規範に基づいてなされる行政決定の処分性の有無(抗告訴訟か、民事訴訟・当事者訴訟かという訴訟類型選択の問題となる)につき問題となる。

★ 法律・条例に根拠があることは、公権力性の要素を肯定する場合など、他の要素の判別と一体化して用いられることがあります(侵害留保原則に立つなら、法律・条例の根拠がないのに公権力性を認めることはあり得ません)。

 

 以上、処分性について、判例の定義の構成要素を分析し、それらの要素が、処分性に関する当てはめがどのような類型(係争行為の類型)で用いられるか、典型と考えられるものを私なりに整理してみました。<付表1>とあわせて、よく見ていただけるとありがたいです。処分性の判定は、事案(個別法)ごとにさまざまな要素をバランスよく考量して結論を導く必要があり、単純に上記の整理でOKとはいかないのですが、「考え方」の基軸として頭に入れておくとよいと思っています。

 

実効的権利利益救済の考慮

 判例は、処分性を肯定することが、「実効的な権利救済を図るという観点」から「合理性がある」という趣旨を述べることがあります。浜松市土地区画整理事業事件(判例ノート16-15)、横浜市保育所民営化事件(判例ノート16-10)、旭川市クリーニング店廃止通知事件(判例ノート16-6〔A〕)などが代表例です。これらの判例は、処分性の判別が必ずしも自明でなく、根拠法令の仕組みに照らした精密な解釈が必要なケースにおいて処分性肯定の結論を導く場合に、補強的な理由付けとして、抗告訴訟を用いることが手続的に合理的であることを述べたものとして整理できるのではないでしょうか。

 すなわち、上記の判例のロジックは、係争行為について、「行政庁の処分」の定義に当てはまることを示した上で、処分性を肯定すること(抗告訴訟の提起ができると解すること)が、「実効的な権利救済を図るために合理的である」、あるいは、「抗告訴訟において当該行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある」、等とだめ押し的に(プラスアルファとして)論述されています。

 ですから、私としては、①判例による「行政庁の処分」の定義への当てはめと、②実効的権利救済という観点からの合理性の論証は、①を肯定した上で、補強として②の理由付けを付け加える、という2段構えのイメージでとらえるとよいと考えます。事例問題として処分性の有無が問われるような場合は、処分性の判別が自明ではない(だから問題となっている)と考えられるでしょう。ゆえに、もし私が学生であるとすれば、②のプラスアルファの理由付けについても、基本的には書く方向で準備すると思います。

 

※浜松市土地区画整理事業事件(判例ノート16-15)

 まず、①事業計画の決定・公告⇒②仮換地の指定⇒③換地処分というプロセスが法定されていることを意識しましょう。②と③は当然に処分性が認められる一方、①について古い判例では処分性が否定されていましたが、最高裁は判例変更して処分性を認めます。そこでのロジックの流れは、次のようになっています。

事業計画の決定がされることにより、事業施行地区内の宅地所有者等は、所有権等に対する「規制を伴う土地区画事業整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされる」のであり、「その法的地位に直接的な影響が生ずる」。

換地処分等の取消訴訟において、事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、事情判決をされる可能性が相当程度あり、「宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性がある」。

 上記の部分に続けて、判決文は、①事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有する、②実効的な権利救済を図るという観点から見ても、事業計画の決定を対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である、③したがって、事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である、という結論部分につなげています。上述した上の囲みが①、下の囲みが②に対応する構造になっています。私としては、①のみで「行政庁の処分」の定義を充足すると一応いえるが、②の部分(救済機能の面から手続の合理性を論証する部分)で補強的な理由付けを行い、全体として処分性肯定の結論を導いている、とイメージしてはどうか、と考えるのです。

 

※横浜市保育所民営化事件(判例ノート16-10)

 保育所の廃止を定める条例制定行為について、「行政庁の処分と実質的に同視し得る」として処分性を肯定した判例です。この判決のロジックは、次のような3層構造になっています。

児童福祉法の定める保育の実施の仕組みは、保育所について「保護者の選択を制度上保障したもの」であり、特定の保育所で現に保育を受けている児童およびその保護者は「保育の実施期間が満了するまでの間は当該保育所における保育を受けることを期待し得る法的地位を有する」。

本件条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させる。当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という「限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位を奪う結果を生じさせる」のであり、本件条例の制定行為は、「行政庁の処分と実質的に同視し得る」。

公立保育所で保育を受けている児童・保護者が、廃止条例の効力を争って当事者訴訟・民事訴訟を提起して勝訴判決・保全命令を得たとしても、市町村として実際の対応に困難をきたす。処分の取消判決・執行停止決定に第三者効が認められている取消訴訟において条例制定行為の適法性を争い得るとすることには合理性がある。

 判決は、現に保育の実施を受けている児童・保護者について「法的地位」があることを論証した上で、特定の保育所の廃止を定める条例には、その施行により、直接、限られた特定の者らの法的地位を奪う結果を生じさせることから、行政庁の処分と実質的に同視し得るとしています。私としては、この部分(上記の2層目のロジック)までで行政処分の定義を充足するための「当てはめ」はできていると思うのですが、判決は、さらに、当事者訴訟・民事訴訟との手続的な比較において、条例制定行為の処分性を認めることに「合理性」があると判示しています。この3層目が、私のいうプラスアルファの理由付けに相当します。

 実効的権利利益救済の考慮については、もっと広く、処分性判定のための指標を当てはめる場面で使われているという説明もできます。大島先生の言葉をお借りすると、「実効的な権利救済の要請は従前の定式の中で潜在的に判断されてきている」という見立てです。*19確かにそのとおりであり、下記の<付表1>をご覧いただければ、随所に権利利益救済の要請への「目配り」が感じられると思います。これは、私の上記の説明では、プラスアルファの理由付けではなく、定義への「当てはめ」の中に溶け込ませる、という整理になるでしょう。

 

その他公権力の行使に当たる行為

 行政事件訴訟法3条2項にいう「その他公権力の行使に当たる行為」は、権力的性質の事実行為を含んでいます。*20行政による行為のうち、「行政庁の処分」の定義に合致しないものであっても、一定の権力的事実行為について、処分性が認められる(抗告訴訟を使って争うことができる)ことになります。宇賀先生のテキストでは、「代執行、直接強制、即時強制のように、行政庁が一方的に私人の身体、財産等に実力を行使して、行政上望ましい状態を実現する事実行為」がこれに相当すると説示されています。*21このような事実行為について抗告訴訟の対象とすることは、公権力性を排除して国民(原告)の権利利益の司法的救済を図ることを可能にするでしょう。すなわち、権力的事実行為が継続的性質を持つものであれば、取消訴訟などで権利利益の侵害が継続する状態を排除できるし、権利利益の侵害が将来に向けて反復継続する、あるいは、将来確実に権利利益侵害が発生するケースであれば、差止めなど事前救済が考えられます。

 もっとも、「その他公権力の行使に当たる行為」は、概念として広いものであり、上記の権力的事実行為に限定されるとは言い切れません。これを広げて考えることができれば、制裁的性質をもつ公表や、相当程度の確実性をもって特定人に不利益な結果をもたらす勧告などについて、「その他公権力の行使に当たる行為」として処分性を認めるという可能性があるのかもしません。この辺りになると、学者的な空論になってしまいそうですから、この連載では止めておきましょう。ただ、別の角度から、行政手続法2条4号イ(不利益処分の定義規定です)を紹介しておきます。行政代執行法上の戒告(処分性を認める見解が有力です)を念頭に条文を眺めてみるとよいと思います。

行政手続法

2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

〔中略〕

四 不利益処分 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

 イ 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分

〔以下略〕

 

処分性の有無の解釈(まとめ)

 処分性を肯定するためには、基本的に、上述した5つの指標を全て肯定することが必要です。もっとも、結論肯定の「当てはめ」をする際、上記5つの要素のうち特に問題になるものに焦点を合わせて解釈するのが普通と感じられます。

 説明が長くなってしまいました。そこで、頭の整理という意味で、私の個人的な感覚として、処分性について結論肯定で「当てはめ」をする場合の注意点を記述してみます。読者の方々の役に立つのかはわかりませんが、ひとつの例として見ていただけると幸いです。

 ① 係争行為について、根拠となる条文を必ずチェックする。

 ② 「行政庁の処分」の定義、行訴法3条2項の引用は必ず行う。

 ③ 行政庁の処分の定義のうち、「公権力性」と「国民の法的地位を直接・具体的に形成・変動させる」という順に、当てはめを行う。

 ④ 公権力性については、法律・条例に根拠があり、一方的に法的地位を形成・変動させるため、公権力の行使といえる、等の簡易な理由付けでよいケースも多い。法律ないし条例の根拠があることを示す(条文を引用しておく)ことを忘れない。

 ⑤ 「国民の法的地位を直接・具体的に形成・変動させる」ことについて、定義を構成する要素のうち、その事案で焦点となる要素を摘示して、詳しい「当てはめ」を行う。残りの要素についても、当然に認められることの指摘のみでよいから、肯定の結論は示しておく。

 ⑥ ⑤の「当てはめ」は、類似事案の判例のロジックを借用することをイメージする。「直接」性の要素であれば、「○○処分を受けるべき法的地位に立たされる」、「限られた特定の者に対して直接○○の法的地位を奪う結果を生じさせる」、法的規律の要素であれば、「○○という処分が受けられなくなるという法的効力を有する」、「○○という法的義務が発生する」などのキーフレーズを、自分の「当てはめ」に埋め込むことを考える。

 ⑦ 行政過程における紛争のタイミング(紛争の成熟性)、抗告訴訟と民事訴訟ないし当事者訴訟との振り分けのどちらが問題になるか、イメージしてみる。それに応じて、事案や法の仕組みを「見える化」して考えをまとめる。

 ⑧ 処分性を肯定した後で(行政処分の定義を充足することを論証した後で)、処分性を認めること(抗告訴訟の対象とすること)について、「原告の実効的な権利救済を図るために合理的である」など、手続上の合理性について付記することを考える。特に、処分性を認めないと裁判で争う機会が実質的に失われる一方、取消判決や執行停止決定により合理的救済が図れる場合については、付記する方向でイメージする。

 ⑨ 上記とは一応別に、不服申立ての対象となることが法律・条例に明記されている場合、申請制度(申請権があること)が条文から明らかな場合(行政側の応答義務が法定されているなど)、当該行為に違背した場合に罰則が定められている場合(法的義務の成立が明らか)、行政手続の適用除外から処分であることの立法者意思が逆算される場合など、処分性を認めるテクニックがあることを意識する。

 

<付表1>

処分性の有無に関する主要判例(○=結論肯定 ×=結論否定)

▶ 指標①(公権力性・その1)=私法上の行為との区別

×

国有財産法上の普通財産の売払い (最判昭和35年7月12日民集14巻9号1744頁・判例ノート16-1)

※行政実務上、売渡申請書の提出⇒払下許可の形式をとっているからといって、私法上の売買であるという法律上の性質に影響は及ぼさない。

×

農地法による農地の売払い (最大判昭和46年1月20日民集25巻1号1頁)

※法規命令(農地法施行令)を農地法の定める売払制度の趣旨に照らして違法・無効とした判例であるが、強制買収農地の売払いの処分性を否定している。

供託物取戻請求に対する供託官の却下 (最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁・判例ノート16-1〔A〕)

※個別法上、却下処分について行政不服申立てできることが法定されている。供託関係が民法上の寄託関係であるからといって、民法上の履行拒絶ではない。

国税還付金の納付すべき国税への充当 (最判平成6年4月19日判時1513号94頁)

※機能的には相殺と異ならないが、法規の定めとその趣旨から処分性を認める。個別法において、定められた行政機関に対し、一定の場合に一方的に充当することを義務付け、充当した場合の通知も義務付けている。

 

▶ 指標①(公権力性・その2)=給付行政における拒否決定(申請に対する処分か否か)

助成金支給要綱に基づく受給申請の拒否 (大阪高判昭和54年7月30日判時948号44頁・判例ノート222頁)

※要綱が根拠であっても、給付制度全体の趣旨・目的から、受給申請について行政庁として応答をなすべきことが一般法理上義務付けられていると解釈できる。

労災就学援護費の不支給決定 (最判平成15年9月4日判時1841号89頁・判例ノート16-17)

※労災就学援護費は、法律ではなく通達(支給要綱)を根拠とするが、法は、保険給付を補完するため、労働福祉事業として保険給付と同様の手続により、労災就学援護費の支給することができる旨を規定していると解釈できる。そして、被災労働者・遺族が具体的に労災就学援護費の支給を受けるためには、労働基準監督署長に申請し、所定の支給要件を具備していることの確認を受けなければならず、署長の支給決定により初めて具体的な支給請求権を取得する。労災就学援護費の支給・不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であり、被災労働者またはその遺族の権利に直接影響を及ぼす法的効果を有する。

 

▶ 指標①(その3・公権力性)=公共施設の設置・稼働(嫌忌施設の差止め)

×

ごみ焼却場の設置 (最判昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁・判例ノート5-1)

※焼却場は、都の所有地の上に私法上の契約により設置され、都が設置を計画し計画案を都議会に提出した行為は、都の内部的手続行為にとどまる。

国営空港の供用 (最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁・判例ノート15-4)

※国営空港の供用は、運輸大臣の有する空港管理権と航空行政権の不可分一体的な行使の結果であり、夜間飛行差止請求は、不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含する。

自衛隊機運航の統轄・規制 (最判平成5年2月25日民集47巻2号643頁・判例ノート15-5)

※自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務付けるため、周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為である。

自衛隊機運航の統轄・規制 (最判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁・判例ノート20-5〔A〕)

※防衛大臣による自衛隊機運航の統轄・規制が公権力の行使に当たることを前提に、「重大な損害の生ずるおそれ」を認めて差止訴訟を適法とする。

 

 

▶ 指標②=A(直接具体的な法的効果・その1)=規範定立行為・一般処分

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水道料金値上げを定める条例の制定 (最判平成18年7月14日民集60巻6号2369頁・判例ノート16-9)

※本件条例は、水道料金を一般的に改定するものであって、そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではなく、本件条例制定行為を行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできない。

保育所を廃止する条例の制定 (最判平成21年11月26日民集63巻9号2124頁・判例ノート16-10)

※本件条例は、他に行政庁の処分を待つことなく保育所廃止の効果を発生させ、限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであり、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得る。

×

環境基準の告示 (東京高判昭和62年12月24日行集38巻12号1807頁)

※環境基準は、政策上の達成目標ないし指針を示すものであって、国民に対する法的拘束力のある規範と解することはできない。

医療費値上げの職権告示 (東京地決昭和40年4月22日行集16巻4号708頁・判例ノート19-5)

※当該告示は、行政庁の他の処分を待つことなく、直接に国民の具体的な権利義務ないし法律上の利益に法律的変動をひきおこすという限りで、行政行為と何ら異なるところはない。

二項道路の一括指定告示 (最判平成14年1月17日民集56巻1号1頁・判例ノート16-8)

※本件告示によって二項道路の指定の効果が生じるものと解する以上、指定の効果が及ぶ個々の道は二項道路とされ、その敷地所有者は具体的な私権の制限を受ける。そうすると、二項道路一括指定も、個別の土地についてその本来の効果として、具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与える。

 

▶ 指標②=A(直接・具体的な法的効果・その2)=計画決定行為・中間段階行為

市町村施行土地区画整理事業の事業計画決定・公告 (最大判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁・判例ノート16-15)

※施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、法定された規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされ、その意味で、法的地位に具体的な影響が生じる。換地処分等を対象として取消訴訟を提起することはできるが、事情判決がされる可能性が相当程度あることから、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性がある。

市町村営土地改良事業の事業施行認可 (最判昭和61年2月13日民集40巻1号1頁)

※国営・都道府県営の土地改良事業の事業計画認可については、法は行政不服申立ての対象となることを定め、行政処分であることを前提としている。市町村営事業の事業施行認可は、これと地位・役割を同じくするものである。

第二種市街地再開発事業の事業計画決定・公告 (最判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁・判例ノート168頁)

※事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生じるものであるから、市町村は、決定の公告により、法に基づく収用権限を取得し、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地等が収用されるべき地位に立たされる。この場合、施行地区内の宅地の所有者等は、30日以内に対償の払い渡しを受けるか建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされる。そうすると、公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼす。

×

都市計画法に基づく用途地域の指定 (最判昭和57年4月22日民集36巻4号705頁・判例ノート16-16)

※都市計画区域内において用途地域を指定する決定は、地域内の土地所有者等に建築基準法上新たな制約を課すことは否定できないが、かかる効果は、新たにそのような制約を課する法令が制定された場合と同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なものにすぎない。当該地域内で具体的な建築行為を妨げられる者は、建築の実現を阻止する具体的な行政処分をとらえ、地域指定が違法であることを主張して当該処分の取消しを求めることにより権利救済の目的を達する途が残されている。

 

▶ 指標②=B(国民に対する法的効果)=内部行為か否か

×

墓地埋葬法に係る通達変更 (最判昭和43年12月24日民集22巻13号3147頁・判例ノート16-11)

※通達は、行政組織内部における命令にすぎず、一般の国民は直接これに拘束されない。本件通達が直接に原告の権利を侵害したり、新たに受忍義務を課したりするものとはいえない。本件通達が発せられたからといって、直ちに原告において刑罰を科せられるおそれがあるともいえない。

函数尺所持を違法とする通達 (東京地判昭和46年11月8日行集22巻11=12号1785頁・判例ノート163頁)

※通達は、原則として行政内部の命令にすぎないが、国民の権利利益に密接な関連を有し、これを争わせるのでなければ権利救済を達成しえないような例外的な場合には、その取消しを求めることができる。

×

教育長の各校長宛の通達  (最判平成24年2月9日民集66巻2号183頁・判例ノート20-5)

※本件通達は、行政組織の内部における上級行政機関から下級行政機関に対する示達ないし命令にとどまり、それ自体によって教職員個人の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものとはいえない。

×

消防長の知事に対する同意拒否 (最判昭和34年1月29日民集13巻1号32頁・判例ノート16-12)

※消防長の同意は、知事に対する行政機関相互間の行為であって、これにより対国民との直接の関係においてその権利義務を形成しまたはその範囲を確定する行為とは認められない。知事の不許可処分に対して適法に取消訴訟を提起した上で、不許可処分の前提となった消防長の同意拒絶の違法を主張できる。

×

大臣の特殊法人に対する認可 (最判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁・判例ノート16-13)

※本件認可は、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、これによって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定する効果を伴うものではない。

×

公務員に対する職務命令 (最判平成24年2月9日民集66巻2号183頁・判例ノート20-5)

※教育公務員としての職務のあり方に関する校長の上司としての職務上の指示を内容とするものであり、教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではない。

 

▶ 指標②=C(法的地位の変動)=単なる法律的見解の表示行為か否か

×

公務員の採用内定通知の取消し (最判昭和57年5月27日民集36巻5号777頁・判例ノート148頁)

※採用内定通知は、事実上の行為にすぎず、相手方は直ちに東京都職員としての地位を取得するものではなく、都知事も職員として採用すべき義務を負わない。採用内定を受けた者の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすものではない。

×

交通反則金納付の通告 (最判昭和57年7月15日民集36巻6号1169頁・判例ノート16-2)

※通告により、通告を受けた者が反則金を納付すべき法律上の義務が生ずるわけではない。通告を争う抗告訴訟が許されるものとすると、本来刑事手続における審判対象として予定されている事項を行政訴訟手続で審判することとなり、法がこれを容認しているものとは到底考えられない。

×

開発許可に係る公共施設管理者の同意許否 (最判平成7年3月23日民集49巻3号1006頁・判例ノート16-3)

※同意が得られなければ、公共施設に影響を与える開発行為を適法に行うことはできないが、同意を拒否する行為それ自体は、開発行為を禁止または制限する効果をもつものではない。同意を拒否する行為が、国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではない。

税関長による輸入禁制品該当の通知 (最判昭和54年12月25日民集33巻7号753頁・判例ノート16-4)

※輸入禁制品該当の通知を受けると、輸入申告者は、当該貨物を適法に輸入する道を閉ざされる。輸入申告者が被るこのような制約は、通知によって生ずるに至った法律上の効果である。通知は、申告者に対し、申告に係る貨物を適法に輸入することができなくなるという法律上の効果を及ぼす。

検疫所長による食品衛生法違反の通知 (最判平成16年4月26日民集58巻4号989頁・判例ノート16-5)

※通知は、食品衛生法に根拠を置くものであり、本件食品について、関税法の定める証明・確認ができなくなり、その結果、輸入の許可も受けられなくなる。本件通知は、上記のような法的効果を有するものであり、取消訴訟の対象となる。

登記機関による還付通知不可の通知 (最判平成17年4月14日民集59巻3号491頁・判例ノート16-6)

※拒否通知により、登記等を受けた者は、簡易迅速に還付を受けることができる手続を利用することができなくなる。そうすると、上記通知は、登記等を受けた者について上記の手続上の地位を否定する法的効果を有するものとして、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。

病院開設中止の勧告 (最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁・判例ノート16-7)

※勧告は、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらす。この場合、実際上病院の開設を断念せざるを得ないことになる。

有害物質使用特定施設廃止の通知 (最判平成24年2月3日民集66巻2号148頁・判例ノート16-6〔A〕)

※通知は、通知を受けた者に、調査および報告の義務を生じさせ、その法的地位に直接的な影響を及ぼす。後続の命令につき取消訴訟は可能であるが、実効的な権利救済を図るという観点からみても、通知がされた段階で、これを対象とする取消訴訟の提起が制限される理由はない。

 

<付表2>

 7つの法定抗告訴訟ごとに、訴えの対象となる行政処分について、整理をしておきます。行政事件訴訟法の条文と照らし合わせて、チェックしてみると良いでしょう。

<法定抗告訴訟の種類>

<訴えの対象となる行政処分>

処分取消訴訟(3条2項)

処分

裁決取消訴訟(3条3項)

裁決

無効等確認訴訟(3条4項)

処分・裁決

不作為の違法確認訴訟(3条5項)

何らかの処分・裁決がされない

非申請型義務付け訴訟(3条6項1号)

一定の処分がされない★★

申請型義務付け訴訟(3条6項2号)

一定の処分・裁決がされない

差止訴訟(3条7項)

一定の処分・裁決がされようとしている★★★

  ★ 法令に基づく申請ないし審査請求に対する不作為が前提となる。

  ★★ 義務付けを求める処分の特定性が問題となる。

  ★★★ 差止めを求める処分・裁決の蓋然性が問題となる。

 

*1:取消訴訟の訴訟要件として、①処分性、②原告適格、③(狭義の)訴えの利益、④被告適格、⑤管轄裁判所、⑥不服申立前置(個別に法定された場合)、⑦出訴期間が挙げられます。櫻井敬子・橋本博之『行政法〔第6版〕』(弘文堂・2019)263頁。

*2:2004年の行政事件訴訟法改正により、抗告訴訟として、義務付け訴訟・差止訴訟が法定されました。これにより、行政処分がされる前に司法的救済を求める事前救済型の抗告訴訟が整備されました。あるいは、原告側から見て、行政庁に対して行政処分をすることを求めるタイプ(処分獲得型)の抗告訴訟、行政庁が行政処分をしないことを求めるタイプ(処分排除型)の抗告訴訟が、それぞれ整備されたということもできます。市村陽典「訴訟類型」園部逸夫・芝池義一編著『改正行政事件訴訟法の理論と実務』(ぎょうせい・2006)42頁以下。さらに、執行停止の要件が緩和され、仮の義務付け・仮の差止めが法定されるなど、仮の救済についても拡充されています。

*3:私は、処分性論には、①裁判に熟した紛争か否かの判別(紛争の成熟性)、②紛争が成熟しているとして、抗告訴訟の対象となるか否か(当事者訴訟・民事訴訟との裁判的受け皿の判別)、という2つの機能があることを明確に意識するとよいのではないか、と考えてきました。このように考えるなら、処分性論とは、裁判所に持ち込まれるべき紛争(憲法上、司法権の権能に含まれるべき紛争)である場合に、民事訴訟・当事者訴訟ではなく、行政事件訴訟法3条が定義する抗告訴訟を受け皿とする交通整理のための解釈枠組みということになると思っています。

*4:処分性の有無について、「抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる」か否かというキーフレーズを定着させたのは、最判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁(『判例ノート』168頁に参考判例として紹介)と考えられます。それ以前の判例では、「行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に該当する」か否か、という表現が普通であったように思います。判決文の表現には「ぶれ」があり、厳密な線引きではないのですが、いずれにしても、上記の平成4年最判は、判例による処分性論のエポックを画すもののように感じられます。

*5:行政事件訴訟法3条2項~7項で定義されている法定抗告訴訟それぞれの対象が、「処分」・「裁決」とどのように対応しているか、<付表2>にまとめていますので、ご覧になってください。

*6:同決定は、平成30年予備試験の論述式問題との類似性を強く窺わせます。この予備試験問題については、古田コートの決定例(高裁で判断は覆されます)と併せて、回を改めて詳しく検討しましょう。

*7:『判例ノート』38頁。私は、昭和39年最判について、行政処分の定義を提示した判例として、行政処分(行政行為)の章の冒頭に配置しました。この判決の「読み方」は難しいのですが、行政処分の定義については、当時の田中二郎説に代表される「行政行為」概念を反映しようとしたものと考えられます。

*8:塩野宏『行政法Ⅱ〔第6版〕』(有斐閣・2019)104頁。

*9:この点、興津征雄「判批」民商法雑誌147巻6号(2013)541頁は、最高裁において、昭和39年最判を処分性に関する先例として明確に引用する例は実はあまり見られなかったところ、平成24年最判が唐突に引用したことを指摘します。行政訴訟研究のトップランナーであられる興津先生による、いつもながらの鋭い言説です(興津先生のご論考は、その後の議論の「風景」を変える優れたものです)。ちなみに、私は、昭和39年最判が最高裁判決によりダイレクトに引用されてこなかった理由について、園部逸夫先生の以下の記述が端的に示すと考えてきました。園部先生は、同判決について、「抗告訴訟の対象としての行政処分性について発想を拡げさせる契機を含んでおり、その意味で注目すべき判決」であると評されます。園部逸夫『裁判行政法講話』(日本評論社・1988)133頁。最高裁は、この「発想を拡げさせる契機」を正面からとらえるのではなく、あくまで個別法の仕組みの問題としての局所的な処分性拡大を是としていたのではないでしょうか? この問題については、回を改めて取り上げたいと考えています。

*10:さらに、根拠法令上、当該行為に係る行政不服申立てが法定されるなど、当該行為につき取消訴訟の対象性を前提とする趣旨の規定があれば、行政処分とする立法者意思が示されているものとして、処分性は肯定される、と考えています。根拠法令に示された立法者意思が、処分性判定の指標になるということですね。

*11:処分性を肯定した場合に、裁判で争うために、抗告訴訟の利用が強制される、という要素があることもイメージしておきましょう。櫻井・橋本・前掲注(1)253頁。

*12:処分性が肯定されることに争いが少ない(自明に近い)ケース、処分性を否定した上で当事者訴訟の可能性を探るケースなどでは、「粗い」指標の方が使いやすいことも考えられます。

*13:行政手続法では、「申請に対する処分」です。

*14:第1回連載で、成田新幹線訴訟に関する「法的仕組みの解析(その2)」として、同事件における工事実施計画認可が、国民の法的地位を変動させるものか、行政過程におけるタイミングの問題(その行為をとらえて抗告訴訟を提起する「紛争の成熟性」が認められるか)という切り口から解説をしています。参照していただけるとありがたいです。

*15:小田急高架訴訟では、大臣が東京都に対してした都市計画事業認可について、処分性が認められることが前提とされていますが。行政組織内部法を拡大する判例法との整合性が少々気になるところです。この点については、髙木光『行政法』(有斐閣・2015)271頁以下が参考になります。

*16:同判決は、都市計画法上、原則として開発行為が禁止されている市街化調整区域において、同意がなければ開発許可申請もできなくなる、という事案になっています(逆に、市街化調整区域内で開発許可がされれば、予定建築物の建築を可能にする法的地位を獲得できることになります。最判平成27年12月14日民集69巻8号2404頁・判例ノート18-4〔A〕)。元々ゼロのものについて、同意を得て許可申請すれば「法的地位」をゲットできる、というロジックです。しかし、国民側が協議を求めたところ、行政側が恣意的ないし違法に同意拒否をするケースをイメージすると、平成7年最判のように切り捨ててしまうことは疑問です。「不同意」の処分性は、平成23年予備試験の論点ですので、次回の当連載で少し検討したいと思います。

*17:行政手続法37条。届出は、形式上の要件に適合していれば、提出先に到達したときに国民側の手続上の義務は履行されたことになります。すなわち、届出に対して、行政側が応答行為をすることは予定されていません。

*18:私自身は、この判決について、裁判所が「届出」を「申請」に書き換えている、という点をとらえて評釈を書いたことがあります。私は、図中に2か所ある②のプロセスのうち、行政実務上、検疫所長から税関長に通知する仕組みが構築されていたことが、判決の結論(検疫所長の決定がファイナルなものという見立て)が導き出される鍵だと考えているのですが、読者の方はどのように思われるでしょうか。

*19:大島義則『行政法ガールⅡ』(法律文化社・2020)128頁。なお、右の箇所での大島先生のコラム「処分性の判断方法」と、129頁以下に掲げられている「処分性の判断要素」は、一読されるとよいでしょう。

*20:杉本良吉『行政事件訴訟法の解説』(法曹会・1963)9頁は、「行政庁が一方的に行う事実行為的処分で相手方の権利自由の侵害の可能性をもつもの」と表現しています。

*21:宇賀克也『行政法概説Ⅱ〔第7版〕』(有斐閣・2021)162頁。

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